ALSの診断を受ける方へ

このページでは、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)の診断をこれから受ける方、ALSと診断された患者さんに向けて、ALSにおける遺伝子検査について紹介します。



監修:東北大学大学院 医学系研究科 教授 青木 正志 先生

ALSの原因の1つにSOD1遺伝子という原因遺伝子があげられます。 ALS患者さんを対象とした遺伝子検査により、SOD1遺伝子に変異を認めた場合、薬剤での治療選択肢が広がる可能性があります。
SOD1遺伝子の変異の有無を検査することで、治療方針の決定や家族にALSのリスクがあるかどうかを理解することに役立つ場合があります。ご自身だけでなく、ご家族のことなど、さまざまな不安を感じられたり疑問に思われたことは、主治医や認定遺伝カウンセラーなどの医療スタッフに相談しましょう。

ALSの分類

ALSには孤発性ALSと家族性ALSの2つに分類されると考えられています。

孤発性ALS

孤発性ALSはALSの家族歴がないことを意味します。孤発性ALSと考えられる患者さんの中にも一定の割合で家族性ALSの原因遺伝子を有する場合があります。

家族性ALS

家族性ALSはALSの家族歴がある場合を意味します。

家族性ALSの原因遺伝子として、日本ではSOD1の遺伝子変異が最も頻度が高いとされています1)
ALSにおける遺伝子検査より、 ALS原因遺伝子の変異を認めた場合、薬剤の治療選択肢が広がる可能性があります。こどもへの遺伝の可能性(後述)も考慮し、ALS原因遺伝子に変異があるかどうかを知ることで、治療方針の決定や家族にALSのリスクがあるかどうかを理解することに役立つ場合があります。
ALSの約5%は家族歴を有し、家族性ALSといわれています。これまで30種類以上の原因遺伝子が報告されており、日本ではSOD1遺伝子変異が最も多く約30%を占めます。
SOD1遺伝子変異が認められた場合は、 SOD1-ALSに対する薬剤治療を検討できます。

1)日本神経学会 監修:筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン 南江堂, 2023

親族(家族や親戚)でALSや ALSと似たような症状があったなどの情報は、家族性ALSの診断をする上で重要な情報となります。主治医にその情報をお知らせください。

ALSの原因遺伝子を知ることとこどもへの遺伝の可能性

ALS患者さんに原因遺伝子があることが分かった場合、その患者さんのこどもの50%には、ALS原因遺伝子が引き継がれます。遺伝子変異があった場合は、こどもがALSを発症する可能性は高くなります。

SOD1遺伝子は、顕性(優性)遺伝であり、遺伝によって子孫に伝えられる性質(形質)が常染色体上の 遺伝子で決定されます。 遺伝子変異を持つ片親からこどもへ遺伝する可能性が50%ありますが、必ずしも発症するとは限りません。

親族(家族や親戚)でALSや ALSと似たような症状があったなどの情報は、家族性ALSの診断をする上で重要な情報となります。主治医にその情報をお知らせください。

SOD1遺伝子検査について

日本におけるALSと診断された患者さんの数は約1万人ですが、このうち約5%は家族性ALSで、日本ではSOD1遺伝子が最も頻度の高い原因遺伝子とされています。
ALSの遺伝子解析は保険適応となる検査です。SOD1遺伝子変異があった場合は、薬剤による治療の選択肢が広がります。遺伝子検査を希望される場合は、主治医に相談してみましょう。

Q&A

家族歴がない場合も遺伝性の可能性は高いのでしょうか?

ALSの原因の一部に遺伝性があります。
親族にALS患者がいない場合には遺伝性の割合は低いですが、子が遺伝子を引き継いだ場合、発症する可能性があります。

遺伝子検査は受けるべきでしょうか

遺伝子検査により遺伝情報を知ることで、治療の選択肢が広がる場合があります。
また治療方針の決定や家族にALSのリスクがあるかどうか理解することに役立つ場合もあります。
遺伝子検査を受けないことも可能ですので、さまざまなメリット・デメリットを考慮してご検討ください。

遺伝子検査が不安なのですが・・・

不安な点を主治医に相談しましょう。または、認定遺伝カウンセラーによる「遺伝カウンセリング※」を利用することで、遺伝に関する不安や疑問などを解消できるかもしれません。
遺伝カウンセリングを実施している病院もありますので、主治医に相談してみましょう

※遺伝子検査のデータは個人情報保護として治療以外には使用されず、ご本人の同意なしに第三者へ情報を提供することは一切ありません。また、収集した情報が特定の個人を識別できる形で公開されることはありません。

遺伝カウンセリングについて3)

遺伝性の神経・筋疾患の中には成人してから発症し、徐々に進行するものがあります。有効な治療法が確立していない場合が多く、難病に指定されていることもあります。患者さんは自身の病気や生活だけでなく、家族へ遺伝する問題を含めてさまざまな困難を抱え、心理的にも苦しい状況になることがあります。 
遺伝カウンセリングでは、病気の確定診断のために遺伝子検査を検討するとき、あるいは診断が確定した患者さんからの困りごとや心配ごとの相談にも対応しています。同様に、患者さんの家族からの相談にも対応しています。その時点で症状のない血縁者を対象とする検査(発症前の検査)について話し合う際には、検査を受けることのメリット・デメリットを一緒に考え、来談者が納得のいく決定ができるようにサポートします。検査結果が本人や家族に与えるさまざまな影響、倫理的な問題、社会的な問題なども考慮します

3)遺伝カウンセリングの相談内容(日本認定遺伝カウンセラー協会)
https://jacgc.jp/public/consultation_content.html 日本遺伝カウンセラー協会より許可を得て転載しています。

Biogen-255319